第四話「魂の名はダイゴウジガイ!キングオブハート北川潤、ここに見参!!」


 国道を引き返し、陸橋前の交差点に立つ。この左手の先からあゆが鯛焼きを抱えて走ってきたのだから、その先に何かしらの飲食店はあるだろう。そう思いあゆが逃げて来た道に入る事にした。
 その道に入り暫く歩くと、右手に駅が見えて来た。
(駅か、中に入れば駅蕎麦くらいは食べれるな…)
 そう思い駅に入ろうとすると、後ろの方から「祐一〜」と私を呼ぶ声が聞こえてきた。
 振り返るとそこには二人の友達連れの、名雪の姿があった。
「こんな所で会えるなんて奇遇だねっ。あっ、私の右のいる女の人が「美坂香里(みさかかおり)」で、左にいる男の人が「北川潤(きたがわじゅん)」。二人とも私のお友達だよ」
「こんにちわ、名雪から名前は聞いてるわ。よろしくね」
 香里という名の女性がそう言い、私に握手を求めてきた。ToHeartのあかりを少し大人にした声で、長いウェーブのかかった髪を蓄えた美しい女性である。
「こちらこそ、これから色々と宜しく頼むぜ」
 そう言い私はその握手に応じた。
「俺はダイゴウジガイだ、ヨロシク!!」
「…名雪の紹介した名前と違うぞ…」
「フ、ダイゴウジガイは魂の名前、真実の名前だ!!」
 潤という男は声がドモン調なだけに、言っている台詞に妙なリアリティがあった。
「ところで、OVAゲッターはどう思う?」
 潤という男が私にそう呼び掛けて来た。恐らく私が筋の入ったアニマーだというのを、名雪から聞いているのだろう。
「悪くは無い。只、竜馬の声はやっぱり神谷明さんだよな〜」
「そうそう」
「後、今川監督が途中で降板したのは非常に残念だったぜ」
「秋元キャラがゲストで出てきたのがその名残なんだろうな。師匠と違ってあっさり敵に意識を奪われちまったけど」
「だがな、見てくれ…。儂の体は一片たりともデビルガンダム細胞には犯されておらん… (C・V秋元羊介)」
「分かっていた、分かっていたのにぃぃぃ…(溢れ出る涙と鼻水)」
「美しいな…(C・V秋元羊介)」
「はい、とても美しゅうございまふ…(更に溢れ出る涙と鼻水)」
「ならば…(C・V秋元羊介)」
「流派東方不敗は…(C・V秋元羊介+更に更に溢れ出る涙と鼻水)」
「王者の風よ!(更に更に以下略…涙と鼻水)」
「全新!(C・V秋元羊介)」
「系列ぅ!(涙鼻水男)」
「天破狂乱!見よっ!東方は赤く燃えているぅぅぅぅぅ!!(C・V秋元羊介+涙鼻水 男)」
「し、師匠…?師匠、師匠、しぃぃぃぃぃしょぉぉぉぉぉおぉぉぉう!!!!(最高潮に達する涙と鼻水)」
「あ、あの、二人とも…」
「無駄よ、名雪。二人とも別の世界に行っているみたいだから…。さ、あの二人はほっといて先に行きましょ」
「う、うん…」
「俺のジョーが、それにゲキガンガーが…死んじまったんだ…(C・V上田祐司)」
「そうか、そうか、お前にも分かるか、分かってくれるか!!(再び溢れ出る涙と鼻水)」
「やっぱ漢の死に様はああだよな…。仲間をかばってドカーン!!(再び更に溢れ出る涙と鼻水)」
「ありがとう、ありがとう…、こんな良いものを見せてくれて…(C・V上田祐司)…って、あれっ?」
 気が付いた時には、既に名雪と香里の姿はそこには無かった。
「弱ったな〜、何処かお勧めの飲食店はないか聞こうと思っていたのに」
「何だお前、腹減ってんのか?だったら俺が美味いラーメン屋を紹介してやるぜ!」
「サンキュー、恩に着るぜ!あと俺を呼ぶ時は『祐一』でいいぜ」
「諒解、じゃあ俺の事は『潤』と呼んでくれ」
「『ダイゴウジガイ』じゃなくていいのか?」
「あれはほんのジョークだ」
「やはりな…。じゃあその店に連れてってくれ、潤」
「おう!」


「さ、ここがその店だ」
 潤に案内された店、それは駅の東側に位置し、近隣でも有名なラーメン屋らしい。店は古めかしく小さいが、味は確かだという事だ。
「この店は美味いだけじゃなく、値段も他のラーメン屋より安いんだ」
「例を挙げれば?」
「他の店で400円する支邦蕎麦が350円で食べられる」
「それは確かに安いな。美味くて、安い…。う〜ん、完璧だな」
 誘われるがままに店の中に入る。まだ昼食時ではないので客はあまりいなかったが、潤の話だと、昼になると毎日のように行列ができるという事だ。
「俺は普通の支邦蕎麦にするけど、祐一は何にする?」
「じゃあ俺は腹も減っている事だし、大盛りの支邦蕎麦にするぜ」
「諒解。オッチャン、支邦蕎麦一つと、大盛り一つ!」
 潤が私の分まで注文してくれた。後はできるのを待つのみである。
 注文ができるまでの間、潤がこの店について軽く説明してくれた。この店は以前この街を舞台にしたあるドラマで、主人公が空腹の時倒れ込み、食事を頂くシーンに使われたらしい。
 その話を聞き、私もそのドラマを見た事があるのを思い出す。
「なあ、そういえばあの時主人公がこの街に滞在している間、お世話になっていたシーンに使われた家は、何処にあるんだ」
  「ああ、あの家は川の東側にある家で、確か7年くらい前から空家になっていた家だ」
「へえ〜、詳しいな〜」
「ま、俺も東側の住人だからな。自分が住んでいる街が舞台になったら、そりゃあ撮影の見学くらい行くさ」
「野暮な質問だけど、その家何で空家なんだ?」
「確かあの家の家主は、近隣でも有名な若手の鋳物師だった。ただ、その人は大分前に死んじまって、暫くは残った病弱の母親とその子供が住んでいたんだ。けど、その母親も7年前に病死しちまって。その後、説明した通りの空家になったんだ」
「よく母親が病弱なんていう所まで知っているな」
「その残された子供というのが俺と同い年で、学校やクラスも同じだったからな」
「成程。で、残されたその子供はどうなったんだ?」
「確か誰かの養子みたいなのになった筈だな。その後は…う〜ん、7年前の事だしあんまり覚えてねえや。クラスは同じだったけどその子とあんまり面識なかったし」
 そんな会話を続けている内に注文したラーメンが来た。注文したラーメンはスープから麺に至るまで長年の修練が凝縮されており、確かに普通のラーメンより遥かに美味しかった。


「ふ〜、食った、食った。それにしても悪いな、奢ってもらちまって」
「気にすんな、引っ越し記念だ。ま、お互い同じ地区同士、仲良くやっていこうぜ」
 充実した昼食時を過ごし、満を辞して店を出る。
「祐一、こっち側は初めてか?」
「ああ、越してから来るのは初めてだ」
「じゃあ、よかったら俺が色々と案内してやろうか?」
「ああ、よろしく頼むぜ」
 そう言われ潤に案内されたのは、駅西側のとある大型スーパーだった。
「まずはここだな。ここの五階にあるゲームコーナーには、ある特設コーナーが設置されてるんだ」
 潤に手招きされ、その大型スーパーに入り五階を目指す。
 五階に着き、例のゲームコーナーに案内される。
「どう見ても普通のゲーセンだぞ」
「そのコーナーは奥の方にあるからな」
 そう言われ奥の方に連れて行かれた。潤に案内された場所、そこは一面を同級生2や下級生のポスターに囲まれた、いかにもマニアの溜り場という感じの所だった。
「すげえ…、この街も捨てたもんじゃないな…」
「だろっ。ん、そこにいるのは神人(かむと)に飛鳥(あすか)、それに高(こう)。今日は何見ているんだ?」
 目の前に何やら寄り集まっている男共に、潤が呼び掛けた。
「おっ、誰かと思えば潤じゃないか。今日は名雪さんと香里さんを連れて買い物じゃなかったのか?」
と声がウラキ似の男が潤の呼び掛けに呼応した。
「さては二股をかけていたのがバレてフラれたな」
と声がジュドー似の男が話題を盛り上げる。
「バーカ、違うよ。今俺の横にいる、名雪の家の、例の居候と意気が合ってアツイ会話をしてたんだ。そしたら、気が付いた時には二人とも蒸発しちまって」
「全く、お前らしいといえばお前らしいが…」
と声がカミーユ調の男が呆れ顔で言う。
「お前の友達か、この人達は…?」
「ああそうだ。右から高野(たかの)神人、斎藤(さいとう)飛鳥、後藤(ごとう)高 だ」
 私的に理解すれば、右から声がカミーユ、ジュドー、ウラキ似の男という感じだ。
「で、肝心の視聴しているモノは何だ?」
 潤が話題を元に戻す。
「ああこれか。副團の新しいマッドムービーだ」
と神人という男が答えた。
「相変わらず濃い物作ってるな〜、副團は」
「おい潤、『副團』って何だ?」
「ああ、俺とそこの3人は同じ学校の應援團同士なんだ」
「へえ〜…」
と私は呆気に取られた。人は見かけに寄らぬというが、どう見ても應援團というよりはマニア友達である。
「ところで祐一、折角だから見ていくか?」
「ああ、そうするぜ」
 潤に誘われ、マッドムービーが上演されているテレビの前に立つ。
「……」
 あまりの凄さに私は絶句する。「勇者王誕生!」の曲をバックにToHeartのキャラが動いている…。マ、マルチがプロテクトシェードやブロウクンマグナムを出している…。
嗚呼…、「勇者王誕生!」が、「メイドロボ誕生!」に…。
「どうだ、凄いだろう潤」
と高という男が潤に感想を聞いてきた。
「ああ、流石は副團だな」
 こんな感じな映像が延々と一時間位続いた。
「ふ〜、面白かったぜ。祐一、そろそろ違う所に行くか」
「ああ」


 そう言われ、次に潤に案内されたのはとあるおもちゃ屋だった。
「ここのおもちゃ屋は他の店では手に入らないおもちゃやアニメグッズが、大量に置いてあるんだぜ」
と順が言った。私は言われるままに店内を歩いてみる。成程、今ではもう生産終了され、他では手に入らないおもちゃが大量に置いてある。
「おっ、これはヘッドマスターズのフォートレスマキシマム。よくこんな古い物が残っているな」
「店長がそういうの集めるのが趣味なんでな」
「まあ、珍しい物が置いてあるのは認めるが、帝都ではよく見かける光景だぞ」
「何だ、何処から越して来たと思えば帝都か。いいねぇ〜、帝都は。物量がこっちと比べれば米国並だもんな」
「そんなにこっちはアニメグッズが売ってないのか!?」
「ああ、だからお前が困らないようにこの店を紹介したんだ」
「次は何処を案内する」
 そのおもちゃ屋出た後、潤がそう私に訊ねてきた。
「そうだな、今日はこの位でいいや。明日辺り三偉人記念館でも案内してくれ」
「諒解。ところで祐一は何で帰るつもりだ?」
「そうだな…。来る時は歩いてきたが、帰りも歩くとなると流石にしんどいな…」
「よかったら俺のバイクに乗って行くか?」
「え、潤、お前こんな雪道の中、バイクに乗ってこっちまで来たのか!?」
「まあな」
 そう言われ、とりあえずどんなバイクに乗っているか興味があったので、潤のバイクが置いてある、駅西側の駐車場まで案内してもらう事にした。
「祐一、ちょっと待ってな。いい物見せてやるぜ」
 線路を挟み、西側に繋がる駅地下通路を出た辺り、潤がそう言ってきた。
「いったい何を見せてくれるんだ?」
「まあ、見てなって」
 そう言うと潤は、
「出ろぉぉぉ〜!ガンッダァァァァァム!!」
と叫び、指を鳴らした。すると何と、無人のバイクが潤の元に走って来た。
「どうだ?凄いだろ」
「凄いというか、一体どういう仕組みなんだ?」
「バイクに、俺の特定の声を察知すると自動的にエンジンがかかって走り出す装置が付けられているんだ。半径50m以内で直線にしか走って来られないのが欠点だけど」
「それなら自分でバイクの方に行った方が早いんじゃないか?」
「それはそうだが、ま、一種の趣味だ。ちなみにこの装置を作ったのも例の副團だ。で、どうする、乗って行くか?」
「いや、止めておく…」
 他にも色々と怪しい装置が付いているんじゃないかと思い、乗るのを遠慮した。
「そっか。じゃあな祐一、またどっかで…。って、お前そう言えば何処の学校に通う予定なんだ?」
 そう訊ねられ、私は来週の月曜日から通う事になる学校の名前を答えた。
「何だ、俺と同じ学校じゃないか。じゃあさ、転校初日…」
「…OK、やってもいいぜ」
と潤と軽い口約束を交わす。
「サンキュー、お前が転校して来る日を楽しみにしているぜ。その時他の應援團も紹介してやるからな。じゃあな、祐一」
 そう言い終えると潤はGガンダムモデルのヘルメットを被り、走り去っていった。
「Gガンモデルのヘルメット…。流石だな…、一緒に乗って帰らなくて正解だったぜ…」
 だが、潤を見送った後向ったバス停で、誘いを断った事を大後悔する羽目になる。
「次のバスまで、に、二時間!?」
 ここが田舎である事をすっかり忘れていた。時刻表を見る限り、東側に行くバスは一日に3〜4本しかない。
(トホホ…、これなら素直にバイクに乗せてもらえば良かった…)
 結局その日は歩いて帰る事にした。


「祐一、お帰り〜」
 家に帰ると名雪が玄関で出迎えてくれた。
「今日はごめんね、祐一達を置いて行っちゃって…」
「いや、代わりに潤に色々と案内してもらったから、別に気にしてないぜ」
「そっか…。できるなら私が色々案内したかったな…」
「何か言ったか?」
「ううん、何も」
 その日は家に帰った後は、夕食を食べ風呂に入った後、すぐに寝る事にした。
(今日は色々あって本当に疲れたな。明日は潤に誘われ記念館巡りか、楽しみだぜ…)
(そういえば明日はアニメージュの発売日だったな。帰り際に、潤に何処かの本屋を紹介してもらうか…)
 そんな事を考えながら、深い眠りに就いていった…。


  「はあ、はあ、あゆちゃんゴメン、遅くなっちゃって…」
「おそいよ、祐一君」
「ゴメン、ゴメン、たいやき買っていたらつい珍しい商品を見つけちゃって、バーコードの戦闘力を見ていたんだ。そしたら約束の時間がとっくに過ぎちゃってって…」
「バーコードのせんとうりょくってなに?」
 きょとんとした顔であゆが僕に聞いてきた。
「えっ、知らないの〜。今バーコードバトラーっていって、バーコードで戦うゲームがすっごくはやってるんだよ!」
「名前だけならクラスの男の子たちがよく言ってた…」
「あ、女の子は遊ばないか…。それよりも、はいっ、たいやき。おくれてきたおわびにいくらでも食べていいよ!」
「ありがとう…」
 あゆにたいやきをわたして、その中から僕も一つだけもらって口にする。
「昨日はこしあんだったけど、今日はつぶあんだよ。味の方はどう?」
「おいしい…」
「だろっ」


「ねえ、祐一君…」
「何、あゆちゃん?」
 たいやきを食べ終わったら、あゆが僕に何かを聞こうとした。
「祐一君は、お母さんのこと好き?」
 そう聞かれて、僕は少し考える。
「う〜ん、たまにおこったりして恐いけど…、うん、好きだよ!」
「そっか…」
「どうしてそんなこと聞くの?」
「お母さんがね、いなくなったんだ。ボク一人だけおいて、お父さんの所へいっちゃったんだ…。それだけ…」

…第四話完

戻る